『ピカドン』のタイトル。日本家屋の一間。暗い。それが明るくなって1945年8月6日の朝が来る。暑い夏の朝、セミの声が聞こえる。庭には、白い洗たくもの。一人の男の子が、紙ヒコーキを片手に、部屋を走り回る。抱きあげて、ほおずりする父親。こどもの笑い声。父親と姉があわただしくでかけて行く。どこにでもある、朝の平和なひとときだ。
外では、光をはじいてキラキラと輝く川。人々を乗せて走る路面電車。青空を舞う小鳥。道ばたの赤い花が、ポロンと朝霧をこぼした。
B29の不気味な爆音が聞こえる。軍需工場の中で働く人々の顔がアップに映し出されて、サイレンがけたたましく響く。
柱時計が八時十五分を指そうとしている。人々は、まだひとときの平和に包まれている。縁先で、赤ん坊に乳をふくませる母親、表にたらいと洗たく板をもち出して、洗たくをするおばあさん。小学校では、先生と生徒が、運動場で体操をしている。ビルの石段に腰をおろし、汗をぬぐってホッと一息ついている女、二階の物干し場から、青空へ向けて男の子が紙ヒコーキを飛ばそうとしたとき----。
爆音。
一瞬、画面は白黒に。そして赤い煙。建物も、電車も崩れる。

ポッと髪の毛が逆立ち、乳をふくませたままの格好で、溶けて崩れてしまう母子。髪が抜け、皮膚が溶け、目もとび出して消えてしまう石段の女、倒れた家の下敷きになった人を助けようとした人が、手をさしだしたら、ベロリとはがれた皮膚だけが残ってしまう。川岸にたどりついて、折り重なったままあえぐ人たち・・・・。
大写しのキノコ雲と、がい骨の山、無残な焼け跡の実写が入る。
再びアニメで、夜の広島の上空。現在の日本の繁栄を象徴するような企業の名をかたどったネオンがきらめく。その画面に黒い紙ヒコーキの影が重なる。紙ヒコーキは、いつまでも上空を舞い続ける。
=終=
『ピカドン』シナリオから。